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福島地方裁判所郡山支部 昭和29年(タ)2号 判決

主文

原告と被告山田アキとを離婚する。

被告山田アキ、同山田藤市は連帯して原告に対し金十万円を支払え。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

反訴原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

原告と被告山田アキの長男篤光の親権者及び監護者を被告山田アキと定める。

訴訟費用は本訴及び反訴を通じ原告(反訴被告)と被告(反訴原告)山田アキ及び同山田藤市との間に生じた部分はそれぞれこれを四分しその一を原告(反訴被告)のその余を被告(反訴原告)山田アキ又は同山田藤市の各負担とし、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)山田ナヲとの間に生じた部分はこれを二分してその一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)山田ナヲの各負担とする。

事実

(省略)

理由

一、原告(反訴被告、以下単に原告と称する。)及び被告(反訴原告、以下単に被告と称する。)山田アキの各離婚請求について。

その方式及び趣旨により真正に成立したと認められ甲第一号証によれば原告と被告山田アキとは昭和二十八年十月二十四日婚姻届出をなし夫婦となつたこと、原告は妻の氏を称したことを認めることができ、証人宗形亀蔵の第二回証言並びに原告本人訊問の結果及びこれにより被告アキが作成したと認められる甲第二、四号各証を綜合すると、被告アキは昭和二十九年二月二十二日に、当時原告及び被告アキが同居していた同被告の父被告藤市方で原告に対し夫婦の縁を切ると述べ、原告の生家の当主である三瓶金重に宛てた縁切状を原告に交付し、原告が被告藤市方を出て右三瓶金重方へ引取る様強要した事実を認めることができる。被告アキ、同藤市各本人訊問の結果中右認定に反する部分は前記各証拠と照して措信することができない。而して被告アキの原告に対する右の行為は民法第七百七十条第一項第二号に該当することは明かであるから、原告は右の事実にもとずき離婚の請求を為し得るものといわねばならない。なお原告は民法第七百七十条第一項第三号によつても離婚を請求し得ると主張しているが、原告の主張事実中同号に該当すると考えられるものはないから、同号による請求は主張自体理由がない。次に反訴原告山田アキの離婚請求について案ずるのに反訴原告が悪意の遺棄又は婚姻を継続しがたい重大な事由に該るとして主張する事実は、被告山田アキ、同山田藤市、同山田ナヲ各本人訊問の結果及び証人山田栄の証言がその余の証拠と比照していずれも措信しがたく、その他これを認めるべき証拠がないので、到底認定することができない。従つて反訴原告山田アキの離婚請求の理由なく失当であることは言うまでもない。

二、山田篤光に対する親権者及び監護者の指定について。

前記甲第一号証によれば原告及び被告アキの間には嫡出の男子篤光(昭和二十八年十月十八日生)があるが、同人は未だ幼少であつて現に被告アキに養育されているのであるから特別の事情のない限りは母の監護養育を受けることが同人にとつて幸福であると考えられるし、又本件離婚の原因が前述の通り被告アキの原告に対する悪意の遺棄にあること、などを勘案すると被告山田アキを未成年者山田篤光の親権者と指定するのが相当である。

三、原告の被告等三名に対する慰藉料請求について。

原告が訴外宗形亀蔵の媒酌により原告主張の日に被告アキと結婚式を挙げ、所謂内縁関係に入り、爾後被告藤市方に同居し、被告藤市方の家業である農業に従事したこと、原告と被告アキが原告主張の日に婚姻届をなし、原告は被告アキの氏を称したこと、はいずれも当事者間に争ない。そうして結局原告と被告アキとの夫婦生活は前に認定した様に被告アキが原告に対し縁切状を交付し、被告等方を退去して原告の生家へ帰る様強要し、やむなく原告がその生家へ戻つたために破綻したのであるが、原告本人訊問の結果によれば原告はそれ以前被告等方に同居していた間に被告等から暴行、暴言等の迫害を受けたが、これを忍んでなお婚姻を継続し被告アキとの家庭を営む意思を持ち続けていたことが認められるから、被告アキの原告に対する前記の退去強要の行為は原告に対する不法行為であることは言うまでもない。更に前の甲第三号証原告本人訊問の結果及び証人三瓶金重の証言を綜合すると、被告藤市は原告が被告アキと内縁関係にはいつてから後、被告藤市の長男栄が原告及び被告アキの夫婦を分家させ、被告藤市の財産を分けることに反対し、又被告藤市が原告の実家である三瓶金重方へ借金の申込をして断られたなどのことから原告を疎んする様になり、時折原告に対し暴行や暴言を加えたりすることもあつた揚句、被告アキが前述の様に原告に縁切状を交付して退去を求めた際、被告藤市も亦被告アキと共に原告夫婦を別れさせるため、原告の退去を求めたことを認めることができる。しかも原告本人訊問の結果によると、被告アキ自身は必ずしもはじめから原告を憎み、或いは原告との共同生活をいとつていたものではなく、被告藤市が原告を疎んじ、被告アキが原告と被告藤市の間に板ばさみとなり、被告方一家の安泰を希うのあまり、原告との離別を覚悟するに至つたものである事情が窺われ、この様な事情に徴すると、結局被告アキの前記原告に対する遺棄行為は被告藤市が原因を与えてこれを被告アキに為さしめたもので、被告藤市の右の行為は原告の婚姻関係を外部から破壊する行為であつて原告に対する不法行為であるから、被告アキ及び被告藤市は、原告が婚姻の破綻によつて受けた精神的損害につき共同不法行為者として各自連帯して賠償の責に任じなければならぬこととなる。成立に争ない甲第六乃至八号各証、証人宗形亀蔵、同小林芳雄及び同山田タケイの各証言を綜合すると被告藤市一家は村内上位の資産を有する農家であることを、証人宗形亀蔵の証言によれば原告の実家は村内中流の農家で父はもと収入役祖父は村長を勤めた家柄であることを、又証人三瓶金重、同松崎巍男の各第一回証言によると原告が被告等方に所謂婿入をする前に被告藤市と原告、原告の兄三瓶金重等との間に婿入の上いずれは原告夫婦を分家させ被告藤市の財産中四分を原告夫婦に分与する旨の約束のあつたことをそれぞれ認められ、これ等の事実と更にこれまでに認定して来た諸事実及び原告の年令等諸般の事情を考慮すると原告の精神的損害に対する慰藉料は金十万円が相当である。しかしながら被告ナヲがその余の被告と共同して原告と被告アキの婚姻を破碇させたとの事実及び原告が被告アキと内縁関係を結ぶに先だつて原告と被告藤市、同ナヲとの間に養子縁組予約のなされた事実は当公判廷に顕れた全証拠によつてもこれを認めることができないから、結局原告の慰藉料請求中、被告アキ、同藤市に対し金十万円の支払を求める部分は理由があり、その余は失当であることとなる。

四、被告等の慰藉料反訴請求について。

被告等は原告が被告等に対し種々侮辱と虐待を加え、精神的苦痛を与えたと主張し、慰藉料金五十万円の支払を求めるのであるが、前述した様に証人山田栄の証言、被告アキ、同藤市各本人訊問の結果はいずれも措信しがたく、その他被告等主張の事実を認めるに足りる証拠がないから被告等の右請求はもとより失当たるを免れない。

よつて原告の本件各請求中前示説明の通り理由のある部分はこれを認容し、その余はこれを棄却し、又被告等の反訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、山田篤光に対する親権者及び監護者につき民法第七百六十六条第七百七十一条第八百十九条第二項人事訴訟手続法第十五条によりこれを被告山田アキと指定し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十五条を適用して主文第六項の通り定め、原告の仮執行の宣言を求める申立は、その必要なきものと認めこれを却下することとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 石川義夫)

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